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2007年度作品。アメリカ映画。
1990年夏、大学を優秀な成績で卒業したクリスは将来を有望視された若者だった。しかしある日、周囲の期待をよそに、車を乗り捨て、貯金のすべてを寄付し、あてのない旅に出る。最終目的地は、アラスカ。初めての自由気ままなたびはクリスの気分を高揚させる。
監督は「プレッジ」のショーン・ペン。
出演は「スピードレーサー」のエミール・ハーシュ。ハル・ホルブルック ら。
旅というものはふしぎなもので、人の心を惹きつけてやまない。ときどきどうしようもなく遠いところに行きたくなるのは僕だけではあるまい。
その理由にはいくつかあるけれど、その一つに逃避願望もあるのだろう。
自分を取り巻き縛りつける場所から逃れていたい。よく言うところの、ここではないどこかへ、という思いと旅は結びついているのではないか。
だが人はいつまでも旅という逃避の手法を取り続けることはできない。人間には帰属欲求というアイデンティティに関わる欲求も持ち合わせているからだ。
だがこの映画の主人公は自分を取り巻く環境、帰属しているすべてのものから徹底的に離れようと試みている。家族から見れば、それは失踪そのものであり、かなり極論じみた行動だ。
そこには親に対する反発もあるだろう。映画にも描かれたように彼は親に対して幻滅し、絶望しており、その環境から逃れようとするのも自然な行為だ。
しかし僕はそれ以上に、彼自身の性質によるものが大きいように思った。
小さいころから放浪癖があった主人公は、自由なるものへの渇望をむかしから持っていたのだろう。その理由のつかない欲求の方が、彼の場合は大きかったのだと思う。
実際、旅先での彼は実にのびのびと過ごしている。
アラスカの苛酷な自然の中で苦しんだり、孤独を感じたりすることもあるが、自然と一体になった彼は自由というものを強く体感しているのが伝わってくる。
アラスカへ行くまでの旅でも法を犯し、いろんな人と出会うが、そこでの彼の旅行はいかにも楽しげで、いきいきとしている。
そんな彼は最後、不注意により死に至る。
死の手前で彼が家族を思い起こすのがなんとも印象的だ。そして捨てたはずの名前もきっちり書き記そうとしている。
人間には帰属欲求というものがある。大自然の中で彼がそんな、なんだかんだでもっともシンパシーを抱く場所への帰属欲求を取り戻すのが印象深い。その瞬間こそ、彼の中で長い旅が終わったときなのだろう。
それが死という形をとってしまったことが残念ではあるが、深い余韻を残す一品になりえている。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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